自分が交配した品種が国内外で流通スタート
栽培の試行錯誤を楽しむ好奇心が仕事の肝です
研究開発部 試作開発課 2007年中途入社
工学部卒 Y.S
前職の園芸店勤務を合わせると、植物業界で30年近く働かれています。
大学の専攻が土木工学科だったので、新卒で入ったのは建設業界だったのですが、自分の肌に合わずすぐに辞めてしまいました。これからどうしようかなと思いながら、学生時代に仲が良かった花屋の店長さんのもとでアルバイトを始めたところ、「あれ?花の仕事って面白いな」と思うようになり、名古屋の老舗園芸店を紹介してもらって正社員として就職しました。
その園芸店は「植物ならなんでも扱う」をモットーにしていたので、草花はもちろん、野菜苗、果樹・花木、フラワーアレンジ、仏花、園芸資材と、とにかく花・植物に関することは一通り叩きこまれました。ハクサンに転職するまで11年間務めたのですが、おかげで園芸に関する幅広い知識を得ることができました。
ハクサンへ転職しようと思ったきっかけは?
結婚して子どもが生まれたのを機に、土日が安定して休める職を探しはじめました。ちょうどその頃、ハクサンが農場で社員を募集していて、園芸店時代からハクサンのことはよく知っていましたし、家からも近く、植物の知識も役立ちそうだなということで面接を受けることに。
面接時には「寄せ植えは作れますか?」と聞かれて、栽培の仕事なのになんでだろうと思ったのですが、実は試作開発課の前任の方が、展示会で飾る寄せ植えや花壇づくりを一手に担っていたそうで、その代わりができる人材が必要だったようで。すごくニッチな理由で採用されたと思っています(笑)。
そこから現在まで一貫して試作開発課に所属し、今年で17年目になります。
試作開発課で一番注意していることは
品種を「なくさない」「枯らさない」こと
試作開発課では具体的にどういった業務を行うのでしょう。
メインの仕事は、海外から導入する品種が日本の気候風土のもとで上手く育つかをジャッジするテスト栽培です。ハクサンで販売している品種は、販売に至るまでに一旦 試作開発課のもとに送られ、数年間の試験栽培を行います。
年間で手がける品種は販売している品種も含めると1,000品種ほどと膨大です。ただ、常時1,000品種をテストするわけではなく、早春、春、夏、秋と季節ごとに分けて、 品種ごとに暑さや寒さへの耐性など、日本の環境下での生育パフォーマンスを多方面からチェックします。
毎年試作品種が入ってくるので、その品種の良い部分も悪い部分も公平に観察して、フラットな視点で植物の情報を評価の場で伝えます。総合的に見てエンドユーザーのもとで楽しんでいただけると判断された品種だけが販売ルートに乗り、種苗が生産者さんへと供給されます。
品種の試作で気をつけている点について教えてください。
なにより大切なのが、預かった品種を「なくさない」「枯らさない」ことです。
海外の育種家や種苗会社は、ハクサンを信用して貴重な品種を預けてくださっているので、きちんと栽培し、評価をして、結果をお返しするころまでが自分の責任です。
中には世界にこの1株しかないような品種を預かることもあるので、なくすなんてもってのほかですし、枯らしてしまって試験ができなかったというのも失礼にあたります。そこが一番神経を使いますし、重責を感じるところですね。
自分が育種した品種が国内外で販売を開始
試作開発課のもうひとつの仕事に「自社で育種をする」があります。
業務のウェイトとしては、導入品種の試作テストが圧倒的に多いですが、自分で育種をする機会もあります。
実は、今年春から、自分が育種したスーパートレニアが国内外で販売されることになりました。きっかけは、過去に先輩が育種したスーパートレニア カタリーナ ブルーリバーという品種が国内シェアをとりはじめた頃に「花色が1色だけなので、他の花色も作ってもらえませんか?」と言われたひと言からです(笑)。
育種というと専門知識が必要なイメージがあります。
普通は農学部で育種や交配を学んだ人が就く専門職ですよね。でも、自分の場合は入社のきっかけが「寄せ植えがつくれるから」という理由からなので(笑)。それと、ハクサンは昔から「分からなくても、とにかくやってみよう!」という環境だったのと、自分も必要なことは現場で走りながら覚えるタイプだったので、「じゃあ、やってみます」と。
スーパートレニアの交配のやり方自体は、以前教わりわかっていたので育種してみたところ、ビギナーズラックだとは思いますが、運良く販売にまで辿り着き、今年の春からスーパートレニア カタリーナの「アメジスト」と「ラムレーズン」の2品種が国内で販売開始となり、海外でも別のトレニア2品種が販売されています。
育種した品種が販売に至るまでには、10年以上かかるのが普通だと聞きました。
そうですね。最速でも5年、平均で10年以上はかかると思います。特に四季のある日本では、交配のチャンスは年に1回しかありません。さらに交配から販売までは以下のような手順が必要になるので、育種した品種が次の年に販売されるということはなく、どうしても年月がかかってしまいます。
育種から販売までのスケジュール(スーパートレニアの場合)
1年目 | 実生個体から育種家が選抜 |
2年目 | 個体選抜群から、営業サイドと一緒に販売可能品種を選抜 |
3年目 | 社内会議で販売決定後、エリート苗作成 |
4年目 | エリート苗を生産ステーションに送付、試験生産、及び、展示会で披露 |
5年目 | 生産ステーションから穂木供給、ポット苗生産、店頭に並ぶ |
ゴールまでの過程をどれだけ楽しめるか
品種の試作開発は好奇心が原動力
品種の試作も育種も、すぐに結果が出ない仕事ですね。
そうですね。それに加えて、試作開発課は直接に売上につながるポジションではなく、いわば投資にあたる部署なので「こんなに時間かけてもいいのかな?」と思うこともあります。でも、品種の導入や育種をしなければ、新しい植物が世の中に並ぶこともないので、欠かすことができない部署ではあります。
根っからの植物好きでないと務まらない部署でしょうか?
いえ、そんなことはないです。自分も植物は好きですが「3度の飯より花が好き!」というほどの植物マニアではありません。それよりも、単純に仕事として面白いんですよ。
同じ植物を育てても毎年同じ結果にはならない。暑さ寒さなどの外的要因や、水やりひとつ、使う土ひとつでも生育に差が出て、言い方は良くないですが飽きることがありません。すぐに結果が出ない代わりに、結果を出すまでの過程では、なんでも試すことができます。
初めはサプライヤー等からの情報を元に栽培しますが、上手くできなかった場合「次はこうしてみよう」と試行錯誤します。経験が増えるにしたがい判断材料も増えて、よりロジカルに考えることが多くなりますね。狙った通りに品種の良さを引き出せると「よし!」と思いますね。そこが難しくもあり、やりがいでもあります。
試作開発課に向いているのは、どういった人でしょうか?
うーん…あえて言うとしたら「植物を育てる試行錯誤を楽しめる、知的好奇心旺盛な人」かもしれません。すぐに結果が出たり、売上に反映されたりする部署ではないので、継続するには、テスト栽培の過程を楽しめるかが大きく関係してくると思います。
関係があるかは分かりませんが、自分の場合は収集癖があって細かいフィギュアや漫画など、気に入るといろいろと集めてしまいます。家を建て替える前は1万冊くらい漫画本がありました。試作開発の業務も膨大に集まった品種を管理していくので、収集癖の気質に合っていたのかもしれません。少々こじつけっぽいですね(笑)。
現在勤務されているのは、足助農場です。職場はどんな雰囲気でしょう?
農場が山の中なこともあり、ほんわかとした雰囲気です。皆さん気さくで話しやすいですよ。私事ですが子どもが生まれつき体が不自由なこともあり、入社して以来会社を急に休むことも多いのですが、上司の方をはじめ、家族を優先するようにと言ってくださりとても助かっています。
プライベートでの趣味や休日の過ごし方について教えてください。
子どもが生まれてからは趣味らしい趣味がなくなりましが、先ほど言ったフィギュアの収集や、漫画は紙から電子書籍版にはなりましたが今でも集めて読んでいます。
休日は家でまったりしたり、子どもとショッピングに行きます。服や靴を見るのが好きなので、昔から娘の服選びに真剣に付き合っていました。最近は一緒に古着屋さんに行くことも多いですね。
最後に今後の目標について教えてください。
直近の目標としては、現在新しい温室をつくっているので、それを軌道に乗せることです。
それと、目標というか役割として思っているのは、自分が蓄積してきた知識や経験を次の世代に伝えていくことです。試作開発の仕事は一朝一夕ではないので、データをシステム化していくことも非常に重要です。一方で生き物が相手なので、どうしても人の経験や勘をゼロにすることも難しい部分もあります。データはシステムで蓄積しつつ、植物をさっと見ただけで、その植物が何を求めているか、どういう状態かを感じ取れる勘どころも、次の人に継承していければと思っています。 あとは何よりも、生産者やエンドユーザーの方に喜んでもらえる植物を生み出すこと!それが最大かつ永遠の目標ですね!